安心して呑めるのも
蕎麦おじさんとだから。
宝石屋さんに持って行こうと思ってたのに
預けたネックレスも
あっという間に手直ししてくれてた。
しっかり
甘やかされてるね…。
あいも変わらず
女将の料理は抜群で
お酒も進むの。
女将は
彼人と同郷だから
訛りが懐かしくて
ちょっとせつない。
そして
場所を変えて
夜景を見ながらの
こんな場所でのお酒は
過去の良からぬことが過ぎってる。
今宵
こんな満月のきれいな夜は
未だ女を
いいえ彼人を
捨てられない
初めての北アルプス。
と言っても
勿論登ったわけではなく
新穂高ロープーウェイで
秋の紅葉と
源泉掛け流しを堪能してきた。
二泊三日の奥下呂、
飛騨高山、奥飛騨温泉郷、
乗鞍温泉郷とのんびり。
夫がマイカーで長距離運転をしてくれて
私はカーナビ操作もろくにせず
隣でご機嫌さんで乗っていた。
ロープーウェイから眺める
勇しくも美しい北アルプスの山々。
こりゃ、
夫が山に入れ込む筈と納得である。
まさに命の洗濯だ。
百名山を一座残すだけにして制覇した夫は
あちこち秘湯を知っている。
登った後入れずとも
何処にどんな秘湯があるかを話してくれて
だから連れ出したいと…。
それはまるで
今まで自由に山にも行かせてくれてたからと
まるで罪滅ぼしの様に
ここのところ
あちこちの秘湯を誘う。
登山の時拠点にした民宿を
ええやろ?此処?と。
私はと言えば
夫が家を留守にしてくれたおかげで
さほど言い訳する事もなく
自由に
とても本当のことは言えない時間を
やり過ごしてた。
混浴露天風呂だって
初めて夫と入った時は
私は他人の目より
夫との混浴の方が面食らったのである。
混浴を教えられたのは
彼人だったんだもの。
そんな事
お首にも出さずに…。
夫の知らない顔持つ妻は
この場に及んで
小さく反省しながら
掛け流しの湯に浸っている。
夫との事を【女色】にするなんて
初めてかな…。
JUJUのライブは
簡単に
女色を連れてくる。
一度
彼人と待ち合わせした
三ノ宮のロフト前。
今月初めのこと。
JUJUのライブを楽しみに、
其処から直ぐ傍に建つ
神戸国際ホールに辿り着くまでの間
彼人との時間が
あっという間に甦る。
満面の笑みで
私を見つけてくれたこと
腰痛もちの彼人は
フラワーロードの信号待ちの合間、
ちょっと待っててな
と言ってしゃがみ込み
体勢を立て直した
こうしたらええねんって
照れ笑いで返した
あれから私も
彼人の様に腰痛に悩まされて
そして初めて
彼人の苦悩を知ったんだ。
今だったら
痛みの共有だって出来たのに
彼人は
私の前から去ってしまったね…
40代の後半のこと。
あの時からもう
数えきれない時間が流れたと言うのに
彼人じゃないヒトに
心動かされたこともあったと言うのに
そしてこの冬還暦を迎えると言うのに…。
JUJUのままならない想いの詰まった
楽曲に包まれ
不覚にも涙が溢れてくると
そんな時間が過ぎ去ったなんて嘘みたいに
そして
そんなことなんて無かったかの様に
胸が熱くなる。
母の退院が一日伸びてしまい
夜の独りの時間が
ぽっかり空いた時のこと。
急遽帰省する事にしたんだし
学生時代の友達やママ友達も
今夜空いてる?は 無理というもの。
そして私は
LINEの友達一覧を眺めている。
わたしが求めさえすれば
無条件で向き合ってくれるヒトの名前を
スマホの中に追う。
今、話せる?
そう打つと
よかよって。
どげんしよるね?
そっちの仲間と楽しそうやねぇ?
ううん
大変よ、色々と
そうたいね
お母さん、どげんね?
突然声を掛けたものだから
慌てると少し饒舌になるのは
昔とちっとも変わらない。
彩子ももう、今年還暦たいね?
俺も歳とったばってん
未だ未だ元気ぞ!
よく、憶えてくれてたね
……
懐かしい声が耳の奥をくすぐった。
忘れかけてた女心を
ちらりとでも過ぎらせてくれたんだもの
嬉しかったなぁ。
それだけで
なんだか安心したの。
でもね
話の途中で何も聞こえなくなって
彼がタイミング悪くなったのか
無言になったから
私も黙って
そして静かにクローズした。
私は
その時間から出かけるのも億劫に感じ
何年か前の様に
顔を見に行くこともせず
それで
もういいやって…。
良いのか悪いのか
なんだかこじんまりと
お利口さんに…
こうやって歳取って行くんだ。
まりやさんがエフエムで話してた。
60代にもなってしまうと
ひとつひとつ
大切に過ごしていくようになるんですよ
って。
折しも
まりやさんにまとめられちゃった。
40周年アルバム
ポチっとしよう。
今年も恒例の淀川花火大会を
ロケーション抜群な友人宅にお邪魔して
持ち寄りのお酒や肴をアテに
わいわいと楽しんだ。
春の花見の時のメンバーもいて
その中には
花見の帰り
二人で呑もうと上手に口説いてくれて
私をほんの一瞬
オンナモードにしてくれたYさんもいた。
酒の席から一階上に上がった処で
お互い、窓の向こうに上がる
花火の写真や動画を撮っていたら
蕎麦おじさんが
階段を上がって来て横に並んだ。
大丈夫よ
私を誘ってくれるほど
Yさんも、そして私自身も
酔ってなかったから…